○熊野市熊野参詣道伊勢路景観保護条例

平成17年11月1日

条例第161号

古来より、人々はさまざまな思いを抱いて旅に出た。幾多の街道の中でも熊野参詣道伊勢路は特別な祈りの道であった。全国からの旅人は艱難辛苦を背に数か月の旅程を費やしてこの道を歩いた。道程命果てる多くの旅人がいた。

こうまでして参った熊野の地と熊野三山への信仰の道熊野参詣道伊勢路には伊勢参拝とは違った民衆の篤い思いがあった。

南の果て熊野には補陀落浄土があると信じられた。すべてのものが受け入れられ救われる観音浄土信仰が熊野古道の真髄である。

熊野の森と山々、海、滝、渓谷、巨岩、棚田、動植物が醸し出す自然景観とこの地に生きる人々の営みとが織り成し多くの信仰と伝説、物語を生み魅力ある熊野独自の風土と歴史を形成してきた。

永く埋もれてきた文化遺産熊野参詣道伊勢路は古道への思いを抱いた人々の地道な石畳道の研究と掘り起こしにより再び癒しの道交流の道として復活した。

わたしたちは先人が残してくれた遺産の大切さ偉大さをようやく認識し敬意を持って後世に残す努力をはじめた。

この地にはこの遺産を守る人々が必ず暮らしこの遺産を生かす知恵が必ずある。

ここに熊野参詣道伊勢路の文化的景観を世界人類のかけがえのない遺産として次の世代に引き継ぎ、訪れる人々に安らぎと感動を与える道として永存させるために、この条例を制定する。

(目的)

第1条 この条例は、世界的遺産である熊野参詣道伊勢路(以下「熊野古道」という。)と貴重な遺産周辺の文化的景観や自然環境を保全することが必要な地区の指定及びそのすぐれた条件を活かした景観づくりについて必要な事項を定めることにより、住民の生活を豊かにするとともに良好な文化的景観を将来の世代に継承することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1) 自然景観 森林の緑や清流等による自然美の豊かな景観をいう。

(2) 文化的景観 豊かな自然景観を有する、参詣道に沿った歴史的意義を有する景観をいう。

(3) 景観づくり 自然景観の形成及び保全をいう。

(4) 原因者 土地の形質変更、土石の採取、建築物等の新・増築、木竹の伐採その他の景観を阻害する行為を行う者をいう。

(5) 事業者 農林業経営や建築物等に係る各種事業を行う者をいう。

(6) 熊野古道の利用者 観光、信仰等を目的として、熊野古道へ来訪する者をいう。

(7) 市民等 文化的景観を保全すべき地区内に土地を所有し、若しくは占有し、市の区域に居住し、若しくは滞在し、又は保全すべき地区を通過する者をいう。

(市の責務)

第3条 市は、熊野古道の良好な文化的景観が保全されるよう適切な保全措置を講ずるとともに、文化的景観の環境確保に対する市民の意識の高揚と自主的活動の助長に努めなければならない。

2 市は、国及び県の施策と相まって熊野古道の文化的及び社会的条件に配慮した歴史的文化遺産の環境確保に関する施策等を策定し、実施しなければならない。

3 市は、重要な文化的景観遺産の保存及び活用を図るためこれらの損傷、滅失等の防止に努めなければならない。

(市民等の責務)

第4条 市民等は、自らが熊野古道の文化的景観づくりの主体であることを認識するとともに、相互に協力して熊野古道の景観づくりに努めるものとする。

(保全地区の指定)

第5条 市長は、第3条第1項の規定により、熊野古道の保全すべき地区を文化的景観保全地区(以下「保全地区」という。)として指定することができる。

2 市長は、前項の規定により保全地区を指定しようとするときは、その名称及び区域を告示し、保全地区の図面を住民等の縦覧に供さなければならない。

3 保全地区の指定は、告示によりその効力を生ずる。

(保全地区指定の取消し)

第6条 市長は、保全地区の全部又は一部がその価値を失った場合その他特別な理由があるときは、当該保全地区指定を取り消すことができる。

2 前項の場合には、前条第2項及び第3項の規定を準用する。

(保全地区における禁止行為等)

第7条 熊野古道の利用者は、保全地区内において、次に掲げる行為をしてはならない。

(1) 火災の危険を生じさせること。

(2) ごみその他汚物又は廃物を捨て、又は放置すること。

(3) 土地の形質を変更すること。

(4) 鉱物を採掘し、又は土石を採取すること。

(5) 木竹を伐採し、又は草木を採取し、その他生態系を壊すおそれのある行為を行うこと。

(6) 看板、標識、工作物等を設置すること。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる行為は適用しない。

(1) 非常災害のために必要な応急措置を行うこと。

(2) 通常の管理行為としての軽易な古道の修復を行うこと。

(保全地区における行為の許可)

第8条 保全地区内において、次のいずれかに該当する行為をしようとする事業者は、規則で定めるところにより、あらかじめ市長の許可を受けなければならない。

(1) 建築物及び工作物の新築、増築、改築、移転、大規模の修繕又は外観の色彩の変更

(2) 広告物の設置及び形状等の変更

(3) 土地の形質の変更

(4) 鉱物の採掘又は土石の採取

(5) その他景観保全に大きな影響を及ぼすおそれがあると市長が認める行為

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる行為は適用しない。

(1) 非常災害のために必要な応急措置を行うこと。

(2) 通常の管理行為、軽易な行為その他規則で定める行為を行うこと。

(保全地区における行為の届出)

第9条 前条の規定のほか、保全地区内において、次の各号のいずれかに該当する行為をしようとする者は、規則で定めるところにより、あらかじめその内容を市長に届け出なければならない。

(1) 木竹の伐採又は植栽をすること。

(2) その他景観保全に大きな影響を及ぼすおそれがあると市長が認める行為

2 前条第2項の規定は、前項の規定による届出について準用する。

3 市長は、第1項の規定による届出があった場合において、当該届出に係る行為が自然景観を保全する上で必要があると認めるときは、その届出者に対し必要な措置を講ずるよう助言し、又は指導することができる。

(保全地区の補修の補助等)

第10条 市長は、保全地区の補修が必要な場合で、当該補修に多額の経費を要するときその他特別の事情があるときは、当該補修に係る経費に充てさせるため、当該補修を行う土地の所有者に対し補助金を交付することができる。ただし、当該所有者から要望があった場合には、市が代わって補修を行うことができる。

(是正勧告)

第11条 市長は、保全地区及びその周辺において、景観を著しく阻害していると認めるときは、原因者に対して景観の保全に配慮した是正措置を勧告することができる。

(立入調査)

第12条 市長は、文化的景観の環境確保のために必要があると認めるときは、その必要限度において関係職員を実地に立ち入らせ、その状況を調査することができる。

2 前項の規定により立入調査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。

3 第1項の規定による立入調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(国等の機関に関する特例)

第13条 国若しくは地方公共団体の機関又は法令の規定により国の機関若しくは地方公共団体とみなされた法人が保全地区内で行う第8条の許可に係る行為については許可、第9条の届出に係る行為については届出を要しないものとする。

2 前項の行為については、あらかじめ市長に協議しなければならない。

(学術参考保護林の指定)

第14条 市長は、保全地区内の特に優れた樹木又は樹林で文化的景観の保全を図るため必要があると認めるときは、関係者の合意を得て、学術参考保護林(以下「保護林」という。)の指定をすることができる。

2 市長は、前条の規定に基づき保護林の指定をしたときは、その区域、種類及び効力を生ずる日について告示をしなければならない。

(保護林指定の取消し)

第15条 市長は、保護林がその価値を失った場合その他特別の理由があると認めるときは、当該保護林の指定を取り消すことができる。

2 前条第2項の規定は、前項の取消しについて準用する。この場合において、前条第2項中「指定」とあるのは「指定の取消し」と読み替えるものとする。

(熊野参詣道伊勢路環境保全指導員)

第16条 市に、熊野古道の環境保全状況の把握、環境保全の指導等に当たらせるため、熊野参詣道伊勢路環境保全指導員を置くことができる。

(委任)

第17条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が定める。

(施行期日)

1 この条例は、平成17年11月1日から施行する。

(経過措置)

2 この条例の施行の日の前日までに、合併前の熊野参詣道伊勢路景観保護条例(平成14年熊野市条例第17号)又は紀和町熊野参詣道伊勢路景観保護条例(平成14年紀和町条例第17号)の規定によりなされた処分、手続その他の行為は、それぞれこの条例の相当規定によりなされたものとみなす。

熊野市熊野参詣道伊勢路景観保護条例

平成17年11月1日 条例第161号

(平成17年11月1日施行)